4月 「 佐藤貢さん 」


事務所の入口を入ってすぐ横の壁に,ぼくたちは一枚の絵を掛けている.
佐藤貢さん,というアーティストの作品.タイトルは確か聞いたのだけど忘れてしまった.
新和歌浦,という和歌山県にある海辺近くの場所に静かに住み,日々海辺に届く漂着物を相手に作品をつくる生活を送っておられる.人柄はとても誠実で穏やかな口調,あまりたくさんは語らないひとだけどぼくたちはその言葉をいつも聞き入ってしまう.音楽とお酒が好きで手がとても大きい.
三年ほど前の寒い冬の夜,貢さんの家で古いレコードプレーヤーから流れる音楽を聴きながら一緒にお酒を呑んだことがある.薪をくべたストーブにあたりながら近く開かれる個展の話を聞いた.会期は結構近づいているにも関わらずまだ一作もできていない,だけど音楽をひとつ録音したよと,すごく楽しそうに話していた.その話を聞いて思わずぼくもすごく楽しくなった.何てことはないのだけれど印象的な夜だった.その後個展が開かれ会場に行ってみるとちゃんと作品は並んでいた.会場ではベースの多重録音により作られた音楽が流れてた.おそらく,その夜話してくださったものだ.
そんな佐藤貢さんの絵のすぐ横に,同じ和歌山の山の中で採ってきたキミノウメモドキが吊り下げられている.絵にあるきれいな青のそのなかのちいさな灯火のような黄色にぴったりだと思ったからだ.まだうすざむい春の日にその絵を見ていたら,ふとその夜のことを思い出してとてもよい気分になった.